バッハ無伴奏補完委員会
 

ミッシャ・マイスキーの無伴奏チェロ組曲(1984年)

ミッシャ・マイスキーの、無伴奏チェロ組曲全曲CDのうち、1984年~1985年にかけて録音された、いわゆる「旧」の方である。

これは、「バッハ無伴奏チェロ組曲との出会い」で述べたように、私が初めて聴いた無伴奏チェロ組曲のCDだったワケだが、その時は全く、何一つ良さを理解しなかったのだった。


しかし、今になって改めて聴いてみると、非常に良いDISCであることが分かった。
一口に言って、優美で華麗な、色彩に満ちたチェロの音色をたっぷりと楽しむことができる。


ちょっと独特の解釈があって、例えば第1番のプレリュード。
弱めの音で入って徐々にクレッシェンドしていく、という辺りは個人的には「?」だけども、まぁ、それはそれで「アリ」だとも思う。
全体的に、また第1番は特に、爽やかな風が吹き渡るような、清涼な演奏になっている気がする。


フレーズの終わり付近でテンポを遅めにしたり、ここぞというところではすごいテンポで弾き進んだり、16部音符の連続するところでも、頭の音を長めに弾くなど、「揺らし」が多用されている。そのため、聴いていてとても面白く、楽しめる内容になっている。


人によっては評価が分かれるところかもしれないが、自分的には全然OKだ。
ときどき引っ張り出して聴くだけの価値はある。


自分的にはシュタルケルが一番いいんだけども、シュタルケルに次いでいいかもしれない。


特に、第4番のジーグのテンポの取り方は最高である。
シュタルケルだと、このジーグはテンポが速すぎてジーグっぽくないんだけど、マイスキーのは実にいいテンポでジーグの味わいをかもし出してると思う。4番ジーグの一つの理想形ではないだろうか。


また、5番のガヴォットⅡのテンポもすごくいい感じである。
第6番も全体的にすばらしく、シュタルケルに勝るとも劣らない出来だ。
第2番のプレリュードは、かすれたような弱音で弾き始める出だしが寂しさをにじませてすごくいい。
第3番のアルマンドも、テンポといい曲の雰囲気といい、実にアルマンドらしくて良い。この3番アルマンドは、曲が一見してリズミカルなので、多くのCDでリズミカルに歯切れ良く弾かれているが、あくまでアルマンドなので、穏やかに流れるように弾くこのマイスキーの弾き方が実は正解だと思う。
ただ、3番ジーグは少し速すぎるかな…でも、これはこれで「アリ」かな、と思わせるものがある。


物足りないのは、第5番プレリュード。もっと堅い音で重々しく弾いてもらった方が、俺的には好みだ。


「ロマン的」だとか何とか言われるらしいが、俺のような素人からしたら、ロマン的だろうがバロック的だろうが、そんなことはどうでもよくて、聴いて楽しめるかどうか、それだけが重要。


2chだか何だかで、マイスキーのことを「この人はバッハのことを何も分かってないから云々」などと言っている輩がいたが、そう言うお前は、マイスキーよりもバッハについてよく知っているとでもいうのだろうか?


マイスキーは、アルマンドやメヌエット、ブーレ、ジーグなどのテンポの取り方から見て、かなりバッハ、特にバロックの舞曲についてよく勉強していると思う。
だから、バッハのことを知らないのではなくて、よく知った上で、あえて「崩し」に入っているのではないかと思う。


1999年の録音では、さらに激しく「崩し」にかかっているらしいが、そちらは未聴である。

(2010年5月23日)

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