バッハ無伴奏補完委員会


 

無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BWV1009


日々、J.S.バッハ作曲の無伴奏チェロ組曲をヴィオラで弾いている。
今日は、無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BWV1009について語りたい。


さて、この第3番は、全体的にエネルギッシュで精力的で、まさに夏まっ盛り、強い日差し、太陽、青空、入道雲、海、山、アウトドア…etc、といった感じの曲である。


しかし、弾いてみて思うのだが、無伴奏チェロ組曲全6曲の中で、一番かんたんな曲なんではないだろうか…
いや、指使いだけ見れば、第1番が一番かんたんなんだけども、第1番は指使いの平易さに比して、一音たりとも音程の狂いが許されない繊細さ、微妙さを持っている。ひとつでも音が狂うと雰囲気を損なってしまう難しさがあるのだ。短調の第2番も第1番と同様に、あの沈鬱な表情を損なわないためには音程の狂いが許されない。


それに較べて、この第3番はそこまでの繊細さ、微妙さを持っていない。
曲そのものがとりあえずカッコいいので、多少、ひとつふたつ音程が狂っても、曲の良さを損なわないのだ。
だから、指使い的には第1番よりは難しくても、弾けてしまえば第1番よりも気楽に演奏できる。
演奏会で取り上げられる機会が多い、というのもうなずける。
演奏が容易な割りには演奏効果が上がるからである。


また、この第3番ほど、人の演奏を聴くよりも自分で弾くほうが楽しい曲もない。
無伴奏チェロ組曲全6曲中、最も聴くよりも弾いた方が楽しめる曲だと言えよう。


1.プレリュード


この出だしの一音は、とにかく可能な限り、つややかで伸びやかで、輝かしい音色で弾き始められなければいけない。ここはフォルテ、またはフォルテッシモでもいいくらいなので、かなり思い切って弾き始めることができる。そして一気に、開放弦で奏される最低音のハ音(ド)まで下りていくが、このハ音をボォ~ン♪と響かせたら、そのままの勢いを保ちつつ、やや音量を落として次のスケールをおもむろに弾き始める。
そしてしばらく、スケールとそれから分散和音の連続になる。ここは、いろいろな情景が思い浮かぶところだ。
やがて、45小節目あたりから、雄大な分散和音の怒涛の進撃が始まる。
やっぱり、ここのイメージは海、雄大な海原でしょうかねぇ…( ̄- ̄)しみじみ…


ただ、ヴィオラ版だと、ここは16分音符の分散和音ではなくて、8分音符で2音ずつ重音で弾くようになってるんだよね。本当は16分音符で弾くべきところを8分音符で書いてるだけか、とも思ったんだが、どうもそうじゃなくて8分音符の重音で2音ずつ弾くようになっているみたいなんだな。
ヴィオラだと、チェロのような重低音の迫力が出ないから、2音ずつの重音で弾いた方が迫力が出るのは確かだけど。恐らく、編曲者の意図なんでしょう、それが。


それはともかく、そしてまた分散和音から開放されてスケールと分散和音の組み合わせへとなだれ込んでゆき、最後にはド迫力の4重音の和音を響かせつつ、終結へと向かって突き進んで行くわけだ。
カッコいい♪( ̄▽ ̄)


2.アルマンド


続いてのアルマンド、これは自分の勝手なイメージなんだけども、どうも万年雪をいただく高山の頂きを遠くから眺めている、という情景なんだなぁ。

無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調アルマンドのイメージ画像:マッターホルン

↑こんな感じ。なぜかマッターホルンですが(^^;)ヾ
夏でも雪が残ってる高い山、それが青空の下にそびえたっている…そんなイメージなんだね。


3.クーラント


次のクーラントは、3拍子の回転運動。
1拍目でストンと落ちて、2拍目、3拍目で上に昇り、そしてまた1拍目で下に落ちる、その繰り返し。
この回転運動をひたすら繰り返す、その活発な動きが真髄かと思う。
それに意外とカッコいい。これなんかは、聴くよりも弾くほうが楽しい曲の最たるものだと言える。


4.サラバンド


このサラバンドは、第1番よりも重音が多くて、弾いていて和音の響きをより楽しめる曲になっている。
これもまた、弾いて響きを楽しむのに最適な曲だと思う。
聴くより弾け!である。
サラバンドだけにのんびりしているので、真夏の昼下がり、とでもいった雰囲気になっている。
「となりのトトロ」の後半、さつきとメイがきゅうり食ってる場面だな、こりゃ…(-_-;)


5.ブーレ


これは、ヴァイオリンの教則本にも、伴奏付きでヴァイオリン用に編曲されて載っている有名な曲である。
それだけにとってもノリが良くってカッコよくて、いい曲になっている。特に、譜例7のところ。

譜例7

無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調ブーレの楽譜

ここで、少しだけ切なくなるところがある(´_` )
ここがいいね。
ただ、シュタルケルのCDを聴いても、そこまで切なく弾いていない。リズミカルに弾ききっていて、あまり切なくない。
自分の勝手な解釈では、ここはもう、スタッカートは一切なしですご~く切なく悲しげにしてしまう。ほんの4小節くらいの間だけなんだが、ここだけテヌートのレガート気味で切なさを炸裂させる。
そしてすぐにまた、ブーレのリズミカルなスタッカートに戻る、という。
この切り替えがいいんだよね。


この部分については、もうかれこれ10年以上20年未満も前の話だが、私がまだ大学生だったころ、ちょうどこの第3番ブーレのこのくだりをヴィオラで弾いている最中に、友人から電話が掛かって来た。母親が電話を受けたんだが、私を呼びに来る間、電話口に私の演奏が聞こえていた。電話に出たら、友人は聞こえていた曲が私の演奏だったことを知って、すごくいいのでビックリした、とかなんとか言っていたという思い出がある。そりゃあもう、自分でも「いいな~♪」とか思いながら弾いてますからね。でも、人にまで言われるとやっぱり嬉しいですよね。


それはともかく、ブーレⅡでは一転して短調になる。ここは、今までの盛夏の景色から、ちょっと秋の気配を感じるところだ。枯れはじめる木々の葉を思い起こさせる。


( ̄O ̄ )♪あれ~が~あな~た~の~好きぃ~な~場所~…


それはオフコース…(-_-;)
しかし、また活発なブーレⅠに戻って、次のジーグへと続いていく。


6.ジーグ


このジーグは、無伴奏チェロ組曲全6曲の全楽章を通じて、最もカッコよく迫力満点の曲ではないだろうか。
どこがすごいって、譜例8のところである。


譜例8

無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調ジーグの楽譜

ニ音(レ)を下に置いて、その上に展開する勇ましい音型がもうカッコよすぎるし迫力あるしで、たまりません。
後半ではト音(ソ)になるけどね。
ここは、あまりスタッカートしないで音を切らずに、とにかく下の二音(後半ではト音)を響かせるのが自分的なルールだ。いや、下の音は切らずに響かせるんだけど、上の音はスタッカート気味に弾くというか、あぁ!言葉で説明するのは難しい。とにかく、自分で弾いてみないことには。
とにかく、だんだん盛り上がってこのフレーズにたどり着いたときのカタルシスが、この曲の全てだと言っても過言ではない。


まとめると、第3番は全体的に、盛夏のイメージでしかもあまり繊細さがないので弾きやすく、演奏効果も高いというおいしい曲だ、ということになる。

(2009年のブログ記事による)

バッハ無伴奏補完委員会トップへ戻る






Copyright© 2010 ばっかバッハ All rights reserved.
リンクはご随意にどうぞ。


inserted by FC2 system