バッハ無伴奏補完委員会


 

無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調BWV1008


バッハの無伴奏チェロ組曲を、日々、ヴィオラで弾いている。
今日は、無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調BWV1008について語りたい。


この第2番は、短調ということで全体に暗く沈鬱な情感に溢れているが、それはどちらかというと小さな一個人の嘆きとか悲しみといった、卑近で矮小な感情のように思われる。これはもちろん、同じく短調の第5番の、どこか個人を超越して荘厳で荘重な、宗教的とも思えるような深遠と比較して言っているのである。


1.プレリュード


上行する8分音符の分散和音による出だしは、自分的には諦観を感じさせるような一種寂寞とした風情で弾き始めるのが良いと思っている。そして切々と孤独と悲嘆を語り継いで行くことになる。
途中、ときどき16分音符に混じって付点8分音符などで伸ばす音が出てくるが、ここを何気に「いい音」で伸ばすのが肝要なところだ。チェロ(自分はヴィオラだけど)の、擦弦楽器としての音の魅力を堪能したい。自分で弾いてても、CDを聴いても、16分音符の中でたまに付点8分音符がいい音でいい感じに伸ばされると、「おぉっ、いい♪」と何だか快感が体を走るような感じがして、たまらなし(―_―)ь


そしてだんだんと感情が高まっていって、ついには40小節目あたりから、悲痛な心の叫びとなる。(譜例6)


譜例6

無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調プレリュードの楽譜


ここはもう、魂の叫びがほとばしるところである。
どうにも癒されぬ心の痛み、悲しみがここで一気にあふれ出すのだ(T^T)


48小節目のGE#Cの和音で絶叫した後、2拍の休みは長めにとって、49小節目からは諦めの境地に入り嘆息しつつ弱音で奏されるのが良い。しかし、それでもなお諦めきれない、拭い去れない未練を残したままなお暗い情念は渦巻き、最後の5小節に及ぶ和音の連続へとなだれ込んでゆく。
ここはただ和音を奏するのではなくて、カデンツァ風にする演奏もあるようだ(シュタルケルがそう)。
バッハの時代を考えると、ここはカデンツァ風にするのが正解なのかもしれないが、ウチのヴィオラ用の楽譜ではただの和音しか書いてないし、自分でカデンツァを作る腕もないので、自分は和音で弾いています(^-^;)


とにかく…このプレリュードだけでも、すんごくドラマチックで悲劇的ですごい。
特に40小節目から48小節目にかけての心の叫びは、この無伴奏チェロ組曲の全曲を通しても、最高潮にテンション高いところだと思われる。


2.アルマンド


次がこれまた、「嘆きのアルマンド」である。
もう出だしから、悲嘆に満ち満ちている。だからといって、アルマンドの優雅な流れを損なってはいけない。流麗な4拍子でありながら、切ない悲哀に満ちているのがこの曲の良さ。そう…悲しみのダンスである。なんとなく、井上陽水を思い出す。


( ̄o ̄;)♪ダン~ス~は~、


      うまっく踊れ~ない~


     ♪あ~ま~り~、


      夢中になれ~な~くて~…


悲しみにくれながら踊るステップ、そんな風情のアルマンドなのだ。
ただし、音程はあくまで正確に、しかも流麗な流れを損なってもいけない。
でないと、ただの意味不明な曲で終わってしまう。


…でもやっぱり、井上陽水の暗さに相通ずるものは、あるよな…(-_-;)


3.クーラント


これはまた、激しい情熱がほとばしるクーラントだ。自分的にはなんとなく、夜の街を疾走するバイクが思い浮かぶ。
悲哀を漂わせつつも、かっこいいのである。近藤真彦の「ミッドナイトシャッフル」が頭の中に流れてくるようだ。


( ̄O ̄;)♪て~ん~し~の~よ~ぉな~


♪あ~く~ま~の~え~がお~…


ポイントは“かっこよさ”である。


4.サラバンド


これもいいんだよねぇ~(T▽T)
悲哀と、小昏い情熱をたたえた歌だ。
最後はまた、心の叫びをほとばしらせて、次のメヌエットへと続いてゆく。


5.メヌエット


劇的でカッコよくて、かなりの傑作だと思われる。
最初のニ短調の和音が、無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番のシャコンヌの出だしと同じなんだよね。自分的には、この和音を「ズジャーン♪」と鳴らすだけでとりあえず感動する(汗)
あまりのかっこよさに、もはや語る言葉もなくすよ…


メヌエットⅡは一転、長調で明るくなる。これは、よく晴れた明るい日差しの中、艶やかに咲き乱れる花畑が思い浮かぶというものだ。しかし再び、メヌエットⅠの暗い情熱へと転じてゆく…メヌエットⅡは、遠い追憶の中の情景なのかもしれないな。あの頃は今はすでに遠く…( ̄- ̄ )…今では、厳しい戦いの真っ只中に身を投じている、的な感じがする。
ええな~♪


6.ジーグ


これも、もうとにかく「かっこいい」。
最初は少し抑え目に、mp(メゾピアノ)くらいで弾き始めるのが自分的にはいい。
楽譜にはf(フォルテ)と書いてあるけど、そんなのは無視だ。
少し寂しげな様子で始まって、だんだんと感情が昂ぶってくるんだ。
随所に重音が出てくるのがまたかっこよすぎ。
そして最後には最高潮まで高まって、もうラスト2小節はクレッシェンドしまくりの超ハイテンションである。
いや、かなりすごい。


この無伴奏チェロ組曲第2番は、全体的に青と、それから少し紫と黒の色調で出来ているように感じられる。
悲哀と憂愁と、小昏い激しい情熱とをふんだんにたたえた名曲だよ、これは。

(2009年のブログ記事による)

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