バッハ無伴奏補完委員会


 

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007

J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲を日頃、ヴィオラで弾いている。
今日は無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007について語りたい。


曲に対してどういうイメージを持つか、は各人それぞれの自由だと思うので、勝手な想像を膨らまさせてもらうと、この第1番は全体に春のようなのどかさ、さわやかさにあふれているように感じる。


まずはたいていの人がその出だしを耳にしたことがあるであろう、プレリュード。


譜例1

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調プレリュードの楽譜その1

ゆったりとした演奏もあれば、速い演奏もある。自分としてはゆったりめが好きなのだが、問題は強拍部(1拍目と3拍目)に表れる最低音のト音(ソ)である。


これは3番線(G線)の開放弦で奏されるため、一度音を出してから弓が弦を放れても、下の方で少しのあいだ


♪ボォ~ン…


と鳴り響いていてくれる。
なので、その音の上に覆い被せるようにして上のD(レ)とH(シ)の分散和音を奏するようにすると、まるで下のト音(ソ)がオルゲルプンクト(下でずっと伸ばしている音)であるかのように聞こえて楽しくなるものだ。
この辺が、バッハの意図したところであろうし、またこの曲の真髄でもあると思う。
12小節目でも、3番線でC(ド)の音を弾くのだが、このとき4番線が1オクターヴ下のC(ド)なため、共鳴して勝手に鳴ってくれる。隠れたオルゲルプンクトというワケである。


こうした隠れた伴奏に支えられた和声進行の妙が、実に心地よい( ̄▽ ̄ )♪


22小節目でD(レ)の音をひとしきり伸ばすのがまた感動的。
そしてラスト近くの大盛り上がりである。


譜例2

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調プレリュードの楽譜その2


何気にA(ラ)の音を背後にずーっと置きつつ、音がいろいろと動く様は、もう誰もが2声部の進行を見て取らざるを得ない。この辺から最後までは、本当に盛り上がるところだと思う。自分は、ミッシャ・マイスキーのCD(恐らく1984年のもの)を聴いてもこんなに盛り上がる曲だとは気づかなかった…最初の出だし以外、頭に入ってなかった( ̄▽ ̄;)…


次にアルマンド。
これはマイスキーの演奏でも、終わりのところの音型(譜例3では最後の小節)だけは頭に入っていて、自分で弾いてみたとき、「あ、こういうフレーズ、あったよな!」とちょっと嬉しくなったものだ。それ以外の部分は例によって頭に入ってなかったけど…


譜例3

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調アルマンドの楽譜その1


このアルマンドは、自分で弾いた印象だと、まさにさわやかな5月頃の陽気で、よく晴れた青空、浮かぶ白い雲…若葉の緑、のどかな田園、といった平和的なイメージが浮かんでくる。もう、完全に「となりのトトロ」の世界である(笑)。


しかも、譜例4の部分は特にすごい。


譜例4

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調アルマンドの楽譜その2

自分はチェロではなくヴィオラで弾いているのでトリルは入れないのだが、26小節目からの8分音符が出てくるあたりが、もう感動の極みである。8分音符の奏でる和声と、16部音符の流れとがかもし出す、えもいわれぬ精妙な調べとしか言いようがない。
言葉で説明できるものではないけれども、こればかりは自分で弾いてみないことには味わえない感動である。
人の演奏を聴いているだけでは、そこまでの感動は味わえない。演奏者によっても解釈が違うだろうし…自分的には、シュタルケルのアルマンドはかなりイメージに近くて満足している。
ただし、この感動を味わうためには、音程を完璧に取らないといけないのでたいへんだ。少しでも音程が狂うと、ぶち壊しになってしまう。それに、アルマンド特有の、優雅な流れも出していかないといけないから、演奏は簡単ではない。


とはいえ、第1番から第6番までの全曲、全楽章の中でも、この第1番のアルマンドが最も素直で純粋な感動が詰まっているので、この無伴奏チェロ組曲の中で一番いい曲は実はこれなんじゃないか、と一人で思っている。
全体的に、弾いていると青空が目に浮かんで、特に最後のフレーズなんかは、なんだかブルーダイヤのCMを思い出してしまう。


( ̄O ̄)♪白さと~ハーブ~の~


俺だけかもしれない(-_-;)…


続いてクーラント。


譜例5

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調クーラントの楽譜

譜例に示した部分、14・15小節目(譜例だと3・4小節目)の16分音符が動くところ。
このフレーズはマイスキーの演奏でも印象に残っていた。しかも自分で弾いても楽しい。ここも、下でDED(レミレ)と繰り返しつつ、F(ファ)、G(ソ)、A(ラ)、H(シ)、#C(#ド)、D(レ)と上っていくのがいかにも、多声的でいいですな。16分音符の細かい動きも、疾駆するエンジン、てな感じでかっこいい。
クーラントはやっぱり、活発に元気よく疾走しなくては。語源がフランス語の「走る」を意味する言葉から来てるらしいし。


そしてサラバンド。
これはもう、そのゆったりしたリズムからしてが、風薫る5月、よく晴れた青空の下、草原に寝転んでのんびり…てな具合の映像しか頭に浮かばない。


( ̄O ̄;)♪か~ぜ~に~消えてゆく~シミもにお~いもぉ~…


ブルーダイヤはもういい(-_-+)


メヌエットは、自分的には音はしっかり響かせつつも、軽い感じで弾くのが好きである。
軽やかなダンス、といった風情で、平和な村の若者が踊ってるような情景で。
途中、メヌエットⅡでちょっと切なくなるのが、またいい味わいですな。


ジーグはもう、特に言うこともなく、ジーグのリズムで楽しげに軽やかに進めば良い。


この第1番は、全体的に指使いがあまり難しくない割りには実に音楽性豊かで、バッハの作曲の妙には敬服の至りである。やっぱり全6曲の無伴奏チェロ組曲の中で、この第1番が結局一番いい曲かもしれない…晴れやかで素直で健全なところが良いね。とりあえず気軽に弾けるという点もポイント高し( ̄- ̄)


しかし、自分がかつて聴いて、良さを一つも理解しなかったマイスキーの演奏、Amazonのカスタマーレビューではなかなかいい評価されてるんだよな…俺の耳は節穴だったということか(+_+;)


注:ここに挙げた無伴奏チェロ組曲の譜例は、下記サイトから無料でダウンロードできるものを使用しています。
http://cellosheetmusic.net/classical/b/bach/


(2009年のブログ記事による)

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